東京都

REPORT

イベントレポート

2022年度 第1回

2022.06.24 開催

21世紀の新しい教育のカタチ

※トークイベント付き

〜教育関連企業が自社のシーズやニーズを語る〜

企業や大学、行政などが抱えるシーズやニーズをスタートアップに向けてプレゼンテーションし、協業や連携を模索する『Innovation Base Tokyo』のピッチ&マッチングイベント。教育関連の商品やサービスを提供する企業や組織が自社のシーズやニーズについて語った第1回の模様をレポートします。

また、ピッチに先がけて、『スタートアップのグロース戦略とオープンイノベーション』をテーマとしたトークイベントを開催。株式会社すららネット代表取締役社長・湯野川 孝彦氏をお招きし、事業スタートからのプロダクトの進化と事業拡大へ向けての取り組み、フェーズによるグロース戦略の変化や、オープンイノベーションの意義などについて語っていただきました。

トークイベント

登壇者プロフィール

プロフィール画像

湯野川 孝彦氏

株式会社すららネット 代表取締役社長

大阪大学基礎工学部卒。東証一部上場企業の新規事業担当役員時代にeラーニング教材すららの事業を企画・開発。2010年、すらら事業をMBOにより買い取り独立した。すららはそのアダプティブな機能により、生徒一人一人の学力に応じて楽しみながら学べる教材として急速に広まっており、「多様化への対応」がテーマであった2016年の教育再生実行会議においては有識者として参画した。
「所得格差と教育機会格差の負のスパイラルを断ち切る」という理念を掲げ、NPO法人と連携しての低所得世帯の学習支援活動なども実施。将来的には、世界中の子供たちに低料金で高品質な教育を提供することを視野に入れ、中国やシンガポール等の学校や学習塾に日本語版「すらら」を提供している。さらに、海外現地の子ども達向けには、スリランカでマイクロファイナンス機関と連携し「Surala juku」の展開を、インドネシアでは学校向けの事業展開も行なっている。

トークイベントの要旨

・ 市場に存在しないスタイルの模索は、試行錯誤の連続
・ EdTech市場ではBtoBを狙うか、BtoCを狙うかが分かれ目
・ 大手企業とベンチャー企業の間にある壁

ゼロから考える状況で、決断の連続

イベントのイメージ

過去に約40業態、4,000店舗のFC事業展開をコンサルティング支援してきたという湯野川氏。2004年に個別指導塾の立ち上げに関わった際に、思ったほど子どもたちの成績が向上しないという問題点に気づいた同氏は、理想のeラーニングを作り出すことでその問題を解決できるのではと考え、すららの開発に乗り出したといいます。EdTech(エドテック)という言葉すらない時代、市場の理解もない中で説明しても納得を得られないと感じた湯野川氏は、直営校を作って価値を証明するしかないと考えます。当初は資金調達に苦戦したものの、唯一関心を示してくれたグロービス・キャピタル・パートナーズからの出資を足がかりに、2007年には上場を果たし、現在では国内外43万人の生徒がすららを利用していると語りました。
事業の初期からミドルステージ、IPOを目指す段階などステージごとの課題をどう乗り越えてきたのかというモデレーターからの質問に対し、湯野川氏は以下のように答えました。

“開発ステージでは、当時のEdTech業界に私たちのようなスタイルは存在せずゼロから考えるという状況でしたから、非常に迷いながら進めて決断をする連続でした。コンセプトを考えて、何をどうやって、どんな座組で作るのか。中でも教材の専門家である人材との出会いはいちばん困りました。大学教授や専門家、システム会社の方とか色々お会いしましたけど、やはり違うな……ということも多くて。開発費を投じたけれど、途中で全部止めたりもして。自分の頭で判断しなくてはいけないフェーズでした”

とにかくプロダクトを作って、ユーザーに使ってもらい、反応を見ながら形成していく試行錯誤の連続だったと湯野川氏はいいます。また、IPOを目指すフェーズにおける課題としては、資金を使いながらの体制づくりやガバナンス強化の難しさを挙げ、収支とグロース、計画の精度などベストなバランスの見極めの重要性を語りました。

BtoBか、BtoCか。エドテック市場での大きな分かれ目

イベントのイメージ

試行錯誤を続けていく中で、プロダクトが顧客から評価を得てプロダクトマーケットフィットが達成できそうだなという確信はどのタイミングで感じたのかという質問に湯野川氏は、初期段階から商品力については「いける」という確信があったといいます。

“個別指導塾のニーズは世の中にうまく対応しつつも、機能的にはまだまだ至らない部分が多いと感じていました。すららで学んだ子どもたちは成績も上がって、目の輝きまで変わりました。その時点で商品力については申し分ないなと。あとはマーケティングの問題だよなっていうのは意識として持っていました。マーケティングをどのように世の中にフィットさせていくのかということを苦労しながら組み立てました”

EdTechというまだまだ世間認知もない中で、すららのマーケティングに関しては、たとえ商品力があってもBtoCにリーチするのは、販促コストやチャーンレートなどの観点から正直難しいと考えていた湯野川氏。そこで最初からBtoBを狙って、塾や学校に対するアプローチを行ったとのことです。ポイントとして、直接営業というスタイルゆえに、顧客の反応や機能面で足りない部分のフィードバックなど、商品力の向上にもつながるやり取りができること、BtoCに比べれば顕著に見られる「まとまった数の生徒を確保できるロットの多さ」「解約率の低さ」を挙げました。、そして、EdTech市場においてBtoBを狙うか、BtoCを狙うかは非常に大きな分かれ目になると語りました。

立ちはだかる壁が、プロジェクトの温度感を下がる

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ベンチャー企業との協業も実績豊富な湯野川氏に、大手企業とベンチャー企業の付き合い方や押さえるべきポイントをうかがいました。大手企業とベンチャー企業ではスピード感が圧倒的に異なる“スピードの壁”があるとのこと。また、大手企業側においてプロジェクトに理解を示している人材が人事異動でいなくなることで、過去の経緯を把握していない、理解が及ばない新しい担当者によって一気に温度感が下がるという“人事異動の壁”があるそうです。これらの実体験をもとに、取締役など役員レベルの視点から長期的にプロジェクトを追いかける仕組みがあった方がいいだろうという考えをお聞かせいただきました。

トークイベント終盤は、視聴者からの質問に湯野川氏が回答する形で進行。「大学などの研究・教育機関とどのようにして接点を持ったのか」という質問に、以下のように回答しました。

“うちは社会課題を解決するというところから接点が生まれました。社会貢献活動をすることで、アカデミックな世界の優秀な人材と触れ合うことができます。社会貢献なので、どっちが儲けるとか、誰がお金を払うということじゃなく一緒に課題を解決したいですよねっていう志をひとつにするところから始まる人脈ですね”

その他にもEdTech市場の存在はどうやって証明したのかという質問に対しては、営業して会社が伸びていくことが証明になるとともに、市場の存在を証明するのではなく、新しい市場を作っていくという意識の方が強かったと語りました。(了)

ピッチ&マッチングイベント

協業スタートアップ募集中の5つの組織が、シーズやニーズのプレゼンテーションを行いました。

【登壇企業リスト】

  • 近畿大学様
  • 株式会社小学館集英社プロダクション様
  • Hamee株式会社様
  • 株式会社グロービス様
  • おおぞら高校様

近畿大学様

近畿大学の産学連携活動について

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『実学教育』を建学の精神として創立97周年を迎えた近畿大学様からは、産学連携の取り組み、新設学部・情報学部の紹介、研究内容の案内がありました。民間企業からの受託研究実施件数が5年連続全国1位の実績を持つ同校との産学連携のメリットは、ものづくりに特化した研究所の活用や学生によるアイデアの具現化、近年力を注ぐ広報活動によるメディア展開力。近畿大学リエゾンセンターが産官学金連携の中心的役割を担い、外部機関と大学のコーディネートをしているとのこと。新設学部である情報学部ほか各学部の研究を紹介し、協業の可能性を秘めたスタートアップ企業からの連絡を待っていると語りました。

株式会社小学館集英社プロダクション様

“学びコンテンツ”の共創パートナーを募集します

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メディア関連事業と教育関連事業の2つを事業の柱とする株式会社小学館集英社プロダクション様の経営理念は『エデュテイメントを通じて人生をより前向きに、より豊かに』。新しいコンテンツの創出とスタートアップ企業との出会いという目的を持って参加した同社からは、学びに軸足を置いたコンテンツの創造と育成の取り組みについてお聞かせいただきました。子どもたちに学ぶ楽しさを感じるきっかけとなるような体験や出会いを届けることにこだわりながら、小学校低学年から中学年を起点としたコンテンツの推進を考え、その中でスタートアップ企業が持つ高い独自性と、自社が保有するアセットで共創を実現したいと語りました。

Hamee株式会社様

教育×スマホで次世代のリテラシーを育む共創パートナーの募集

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子供向けスマホ『HamicPOCKET』を開発・販売するHamee株式会社様は、EC事業に強みを持つ企業として、SaaS型システムの開発運営事業と、スマホグッズの製造・販売というコマース事業に取り組んでいると説明。第3の事業創出に向けて取り組んでいるのが“スマホにも補助輪を”をコンセプトとしたプレスマホ『HamicPOCKET』であり、キッズケータイとお下がりスマホの間を取るようなサービスの展開を意識しているとのこと。子供のリテラシー向上とウェルビーイングを育む共創パートナーを募集したいと述べ、世界観の通じ合うスタートアップ企業との取り組みを歓迎したいと語りました。

株式会社グロービス様

グロービスのEd-Tech領域での挑戦〜日本最大のビジネススクール/VCから新規事業を立ち上げたストーリー〜

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経営大学院の運営、スタートアップ企業への投資、経営ノウハウの発信で社会の創造と変革を実現していくというビジョンを掲げるグロービス株式会社様は、EdTech領域にも非常に縁が深い立ち位置にあるといいます。同社では教育のあり方が大きく変わっていくという考えから、学びの未来を作り出し、人の可能性を広げていくというミッションにより幅広いプロダクトを展開するデジタルプラットフォームをスタート。現在は簡便に基礎知識を学べる仕組みや、IT、デザイン領域についてもコンテンツの拡充を進めており、内部のノウハウだけではなく、外部のプレーヤーと一緒に学びの未来を共に切り開くことは非常に重要だと語りました。

おおぞら高校様

通信制高校が切り開く教育のみらい

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『なりたい大人になるための学校®』をタグラインとして掲げるおおぞら高校様は、通信制高校の特徴である時間の有効利用と柔軟なカリキュラムに大きな可能性があるといいます。しかしその特徴が時として学びの姿勢を脅かす存在にもなりかねないと説明する同校では、通信制高校の長所とそのリスクをしっかり伝えるようにしていると語りました。学生が夢や未来を見出だせないのは「知らない」だけで、それを解決するためにさまざまなスタートアップ企業と協業し、多くの学生に「知る」機会を生みながら、教育の未来を一緒に作っていきたいと述べました。

【イベント概要】

テーマ
21世紀の新しい教育のカタチ

開催日時
2022年6月24日(金)13:00〜17:00

イベントパート開催場所
オンライン(YouTubeライブ配信)

本イベントはInnovation Base TokyoのYouTubeチャンネルでアーカイブ配信中です。
こちらでご覧ください。

※協業募集期間が終了している場合がございますので、ご容赦ください。